さて。本日は、昨日の続き。
毎年、なぜこの田立(ただち)の大イチョウを見に行くのかといえば。それは、中央西線の雄・EF64による貨物列車と合わせたいから。
ときに、長野県は石油輸送を鉄道輸送に頼っている地域であります。海がないので、こればかりは致し方ありません。同じ「海なし県」でも、海に近い奈良県は大阪方面からのトラック輸送が可能なため、石油貨物列車は見られないはずです。一方、長野県は海から遠い上に南北、中央アルプスという天然の要害があります。このため、名古屋方から石油のトラック輸送をしようにも、中央道の恵那山トンネルなど長大トンネルは、万一の火災事故に備えタンクローリーが通行することができません。東京方も同じで、山梨県の笹子などタンクローリー通行不能箇所があります。かといって、木曽川を船で遡上するわけにも行きません。そこで、鉄道貨物が石油輸送の大動脈となるのです。
以前、南木曽で土砂崩落があり、中央西線が暫く機能停止してしまった事がありましたが、その時のJR貨物は、長野県への石油輸送を稲沢ー東海道線ー横浜羽沢ー武蔵野貨物-南武ー中央東-篠ノ井という大迂回ルートで成し遂げました。同じ事は東日本大震災でもあって、東北への石油輸送を日本海ルートと磐越西線ルートの2系統でふんばり、東北線の復旧と共に通常ルートへと戻した実績がございます。普段、ナニゲに地味に走っている貨物列車ですが、1県の石油輸送を一身に担っていたりする、すげえ奴らなのであります。そして、そんな貨物列車を牽引している機関車は、もっとすげえ奴らなのであります。
そういうわけで、中央西線の貨物列車は、あたくしたちテツにとってはスーパーヒーロー。たとえ、しなの号を撮り損ねても痛くもかゆくもありませんが、貨物を一発撮り損ねると半日は再起不能状態に陥るぐらいの大損失になっちまうのでございます。とまあ、これだけの思いを抱えて撮影に臨んでおります。
残念ながら、この時期は日没が早いため夕方の石油貨物列車は撮れません。
その1時間前に通過する、コンテナ貨物が本日のメインターゲット。
山々にモーターの唸りが響き始めると、姿が見えなくても接近が分かります。
やがて、カーブの向こうに光る2つの目玉が現れます。
あたくしは、このあたりからシャッターに指をかけて機関車を追尾しており、いつでも発砲可能な臨戦状態。
機関車の脇に陽があたり、大イチョウが輝く中、長い貨車がS字を描いた瞬間に射撃開始。
この、緊張と集中、そしてそれが一気に解放される一連の流れが終わった後に残る、魂のカタマリのような作品。
これが、鉄道撮影の醍醐味でありましょう(^^)